非合法ジジィ
わが村の飲んだくれのジジィは昔、ハッパで漁をしたことがあるというのが「自慢」(になるかよ)だ。今やったらとうぜん手が後ろに廻る、いや、当時でも廻る。
ジジィに言わせると、今時の芋焼酎など、ちゃんちゃら可笑しいそうだ。先日、銘酒「富乃宝山」を手土産にもって行ったが、「ナンダ、この水みたいのは」と言う。ジジィ、これが今の芋焼酎の主流なんだゾ、と教えてやっても言うことを聞かない。
ジジィに言わせると、芋焼酎というのはガツンっと来る香りがあって、呑むとブワーっとならないとだめだそうだ。栓を開けると部屋の中に焼酎のあの香り、というかニオイが立ち込めて、女衆は鼻をつまんで皆逃げ出す、子供はおびえて泣く、というのが芋焼酎の大道だそうである。
つまみはそこらに生えている行者大蒜か、キュウリと自家製味噌でもあれば充分。ハムなど持っていこうものなら、「こたらものは合わん。酒の味がわからなくなる」と口にしない。なければ、味噌と塩だけでよさそうだ。実にハードボイルドである。
密造酒は、かつて私も作ったことがある。コシヒカリの新米を使った。湧かない(発酵しない)ので、イーストをぶち込んだ。ものすごい味のドブロクになってしまった。ジジィにこの話しをすると、歯のない口でギャハギャハと大笑いされてしまった。
「新米を使う根性が悪い。新米が出来たら、余った古米で作る。麴はまじめにたてろ。麴がすべてだ」そうである。まことにごもっとも。
ちなみにジジィは、日本共産党の村の中での数少ない支持者だ。あの弱そうでつっぱっているところがいいそうで、選挙ともなるとチラシを配ったりする。しかし、村の共産党のほうからは、「できたらあまり動かないでいただいたほうがありがたい。ジィサマに動かれるとかえって票が減る」と思われているようだが。
私の大好きな非合法ジジイだ。
写真はじじぃから貰った密造用の焼酎瓶。
今は買ったほうが安いので情けないことに、熊五郎のダブルボトルなどを呑んでいるが、ほんとうはかつて作ったイモ密造酒のほうが好きなようだ。
酔っぱらった(1年中だが)ジジィに、間違って密造酒のウンチクをタレさせようものなら、確実に2時間はつきあわされるはめとなる。芋はあまり甘くないほうがいいだとか、(これは別な密造家と意見が分かれるのだが)、蒸し時間は何分だとか、舟という道具で絞って、露にして、冷やして焼酎瓶に詰めてと、まるで「夏子の酒」の杜氏のようだ。