農業は都会人のお花畑でもなければ、経済の草刈り場でもない
私は今まで、自分の農場でも2組の研修生を受け入れました。一組は無残な失敗。あろうことか多額の借金を踏み倒して、四方に不義理をした挙げ句夜逃げしてしまいました。私の取引先を紹介したために、その後始末に追われ、私自身の信用も傷つけられました。
そしてもう一組はすったもんだの挙げ句、今や子供を2人作っていつの間にか村の一員になっています。毎朝、チャリンコの後ろに子供を乗せて村の保育園に送る若い父親の姿が見られます。経営的にも儲かりこそしないものの、しっかり安定しているようです。
この二組の明暗を考える前に、農業の中でなぜ後継者が出てこないのか考えてみましょう。前のブログ記事で、大きな車を買ってやって、若夫婦の新居を作ってやる農家のことをお話しましたね。どうしてこんなに優遇されて農業ができないんだ、とも書きました。
でも、出来ないのです。プロの農家が減ってパートの農家、つまり兼業農家のほうが今や多いともどこかで書きました。なぜなのでしょうか?原因は単に減反政策だけではないのです。
あるいはこんなことも村ではよくみられます。農家の娘は農家に嫁がないのです。農家の母親は娘が農家に嫁に行くというと必死になって止めます。娘も高校のボーイフレンドが、農家を継ぐとなった瞬間お別れとなったなんてケースはよくあることです。
理由?簡単です。農業が食えないというのは一面の真理、リアルな現実だからです。知恵を絞り、汗をかいて、ようやく食えるのです。
ですから私はあえて、都会から来る新規就農希望者にお聞きしたい。何代も続いたプロの農家が辞めていくのに、あなたがたひ弱な都市の人に農業が務まると思いますか?この農村という因循姑息ななにもかにも都会と違う社会で生きていけますか?
ひ弱と私に言われてむっとなった人、手を挙げて。おやおや多いですね。
「ひ弱」の意味は「土地なし、金なし、技術なし」の三大要素のことですが、その前にもうひとつ大きなことが実はあるのです。
大部分の新規就農者がふわふわとした夢のような就農を考えていることです。「田舎暮らし派」はいってみればこんなイメージでしょうか。
「朝、野鳥の声で目覚めると妻がいれてくれたタンポポコーヒーの芳香がキッチンからした。薪オーブンから焼きたての自家製小麦で作ったライ麦パンが取り出される。農園で採れた新鮮な野菜と柚子のジャムで朝ご飯。さぁ、今日はなにをやろうか、畑のかぼちゃの手入れでもしようか、それとも山菜取りにでも。午後は菜の花畑でヨガでもやろうか」
一方、昨今流行の「農業で一発起業派」バージョンで走ってみますか。
「イチゴを作ってみたい。しかも加工-販売まで一貫してやりたい」、あるいは「バラの切り花をやりたい。オランダからいい品種を輸入すれば市場は大きいはずだ」、「牛をやりたい。オーストラリアのような品質管理がしっかりした牛肉生産してみたい」
こちらの方の夢は、田舎暮らし派より一見リアルなようですが、詰めて聞くと資金手当て、苗の手当て、保管、デリバリー、市場のリサーチなどほとんどしないままに開始して、多額の金融の圧力で自転車操業を続けている場合も少なくありません。農業経営の実際を予習しないまま、都市の激烈な競争社会より農業のほうが楽だろうくらいな気持で参入しているのです。農業を舐めています。後者の「一発起業派」の方は「田舎暮らし派」がせいぜいが夜逃げですむのに対して、下手をすると数千万円単位の大ヤケドを作りかねません。
就農はオーダーメイドの服のようなものです。百人いれば百人のイメージがあるようなものです。だからこそなにをしたいのか、それを現実に手にいれるためにはどうしたらいいのかを真剣に考えて欲しいのです。
たとえば、ライ麦パンを作るためのライ麦の10アール(1反)あたりの収穫量はどのくらいなのか、自給だけではなく売ることは出来ないのか、米と麦は組みあわすことは出来ないのか、そこからの自給分を引いた販売用はどのていどなのか、そしてその収益で家族を養えるのか。
事前に調べられることは多いはずです。都会から農村に通うか、私のような経験者に聞くか、あるいは今は専門の窓口すらあります。ところが大部分の人がそれをしない。感覚的にとらえて、現実を見ようとしない。なぜなんでしょうか?プロの農家が逃げている現代に不思議ではありませんか。そんなことも調べてこない人に農業ができるはずもありません。
就農は夢だけで語っているうちは単なる夢にしかすぎません。だから夢を見たまま飛ばないように。こんな腰つきで「見る前に飛べ」をやったら、確実にあなたは飛んだ結果、谷底に落ちることでしょう。農業は都会人のお花畑でもなければ、経済の草刈り場でもないのですから。夢は経済から崩れていくのです。
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■[写真上) 地上7mの納屋の屋根のトタン張りをしているヨーコ女史。このくらいの高さがいちばんコワイのです。
■[写真中) 納屋の柱組みを作業。右がヨーコ女史。腰の釘袋が様になっています。手前に見えるのがU字溝で自作した土台。これを地下80㎝ほどに埋めて、周囲をコンクリートで固めて固定し、その上に柱を乗せます。入植から10年間は、大工仕事とお別れできなませんでした。経費の削減が目的でしたが、やってみるとそれなりに面白いことに気がつきました。最後は自宅まで作るはめに。
■[写真下]まだ小犬の愛犬モモをうんしょ。彼女は中形犬にもかかわらず18歳まで生きた長寿の犬でした。驚くほど賢く、しとやかで優い犬でした。
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