TPP、心しよう、今度は本気だ。自由貿易圏構想の裏側
民主党が自由貿易圏構想を言い始めたのはこれが最初ではありません。
元々民主党の昨年の選挙マニュフェストにはしっかりと、しかし姑息にも小さい活字で(笑)、おまけに農業の項目ではなく、「外交」の項目に「日米FTAの推進」と書かれてありました。
結局、そのときも農業界の大反対でうやむやになりました。当時は野党でしたからともかく、今はレッキとした政権党で、しかも首相自らがTPPだのEPAだのを言っているわけですから、これは本気であろうと思われます。
ある意味、「環太平洋」となっただけ、かつての日米FTAより規模が格段に大きな自由貿易圏構想に「成長」しています。
その意味、民主党政権はマニュフエストどおり誠実に実行していると言えないこともありません。ですから、農業団体のある種の本音である、「自分たち農家がこれだけ反対すれば、TPPもEPAもできるはずがない」という甘い幻想は捨てたほうが良いと思います。
民主党は自民党と違って、農民的体質も、農村に基盤を置くことも少ない政党です。むしろ都市型政党で、農水族も一握りにすぎません。
民主党政権がどこまで持つかははなはだ不透明ですが、一国の首相がEUの首脳と「交渉開始」を約束してしまった以上、これはもはや一国の国際公約とみなすべきです。
仮に民主党が政権を去ったとしも、外交公約は生き残るのです。国内公約は時の情勢次第ですか、国際公約は違います。普天間問題のようなもので、後継政権はそれに束縛されざるをえません。したがって、農業界が泣こうがわめこうが、この国家方針は形を変える事があっても継承され続けます。
むしろ自民党からすれば、内心苦い薬を民主党に呑んでもらってラッキーとほくそえんでいるのが本音ではないでしょうか。菅氏の並外れて軽いおつむが、このときばかりは自民党は頼もしく思えたことでしょう。
今後、自民が政権に復活してTPPを言い出しても、「それは民主党が言い出して決めたことだ。困ったものだ。しかし諸外国との関係上やらないわけにはいかない」とかなんとか言いながらやるのでしょうかね(ため息)。
菅首相は、このTPPがいかなる意味を持つのか、真の重みをまったく理解せずに自由貿易圏というパンドラの箱を開けてしまったのです。
ですから自民党に再び政権が移行しても、このTPP、EPA路線は形を変えて継承されます。もう不可逆です。そのことを私たち農業者は肝に銘じたほうがいい。
ではなぜ、この時期にということです。まぁ、APECで日本が議長国だったというのはあたりまえとして、その陰になにがあるのか、私は去年からずっと不思議に思ってきました。
米国の利害は農産物の大規模無規制輸出とミエミエですが、日本の利害が「輸入品が安くなる」ていどしか見えなかったのです。
答えのヒントはお燐の韓国にありました。韓国は実は去年の段階で、米韓FTAは14カ月間の交渉を経て、現在両国の国会で批准を待つばかりとなっていました。
米国のほうが、オバマ政権になったためもあり、一時足踏み状態だったそうですが、実は米国の方も一枚岩ではなく、全米自動車労組などの反対もあったそうです。
韓国は他にもEUなどと積極的にFTA交渉を持っています。それがわが国をいらだたせています。今回のAPECでも、G20をわざわざ本会議の前に強引に割り込ませてきて、TPPに対しての存在感をアピールすることに成功しました。
韓国政府が米韓FTAを締結に邁進したのは、自動車関税が原因でした。韓国のヒョンダイ(現代)自動車にとって米国市場は死活でした。そしてヒョンダイ自動車の死活は、韓国経済の死活と直結していたのです。だから、当時のノムヒョン政権は、農業部門が受ける大打撃を事前に承知していながら、締結に突き進んだのです。
米韓FTAにより、ヒョンダイ自動車は米国市場でかけられていた自動車関税をゼロにでき、一挙にシェアを伸ばす起爆剤にできると考えました。ただし、韓国農民を切り捨ててですが。
このようなFTAの動きは、ASEAN諸国と中国などの間にも見られます。このような競合する新興工業国と熾烈な市場競争をしている日本の輸出産業、ことに自動車産業にとっては、米国とのFTAは喉から手が出るほど欲しい協定だったのです。
民主党の日米FTAマニフェストの背後には、自動車産業と一体となった自動車総連があります。言うまでもなく、自動車総連は有力な民主党支持母体です。
そしてさらには、非自民・親民主の経団連内勢力であるキャノン、トヨタなどが自民党に見切りをつけたひとつの理由は、自民党の手ではいつまでたっても農業に足を取られて、自由貿易圏構想が始まらないと考えたからです。
このようにして、労働界と財界への供物に日本農業は供せられようとしています。
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