マーボウさんにお答えして TPPに「絶対賛成」も「絶対反対」もない
マーボウさん。私は情勢次第では、TPPなどやらぬほうがいいと、今でも思っていますよ。
ひとことで言えば、情勢が変わったのです。
今は、かつて私が反対論を唱えていた当時のように、参加の是非が問われた時期ではなく、一定の結果が出た時代なのです。
覚えていますか、TPP参加反対論でよくあったのは、「交渉したら米国の言うことを丸飲みにすることになる」、あるいは「例外なき関税撤廃を押しつけられる」というものでしたね。
そうなりましたか?
私は日本のコメ作りは国家主導の生産カルテルで、21世紀ずっとこのようなカルテルをはめているわけには行かないと思っていました。
JAはいまでも自由化すればコメ作がダメにになるように言っていますが、本格的に大規模米作に取り組んでいる農家はそうは思っていません。
いきなり自由化は困るが、時間をかけて段階を踏めば、むしろ大規模集約が可能だと考えています。
今のように、生産制限をかけられて、せっかくのコシヒカリを米粉にしたり、飼料米に転換するなんて馬鹿なことはしたくないのです。
豚肉も同じです。結局は、今でなくてもいつかは来ると思っていたのが、TPPで現実化しそうなので、震え上がったわけです。
かつて私が心配したのは、コメよりもむしろサトウキビでした。
サトウキビが自由化されたら、沖縄農業の柱は崩壊するでしょう。特に離島はひどい打撃です。
すぐに代替作物は見当たりません。
すると台湾まで無人の畑が続き、島によっては人口減少すら生じるかもしれません。
これは、文字通り国の安全保障上の問題でもあると考えました。
しかし、ご承知のようにTPP交渉の結果、コメもサトウキビも、そんなことはなかったわけです。
GMO(遺伝子組み替え農産物)にしても同じです。別に米国の言うがままになる必要もなかったし、実際、そういう結果になりました。
交渉開始時には、最大限のリスクを想定しておきます。
甘い見通しで交渉に臨んで、その結果、国がボロボロになるより、これだけのリスクがあるからしっかり交渉せよ、と国に主張したほうがよいのです。
それがリスク管理の原則です。
だから、私は最悪シナリオをいく通りも考えました。それが、数年前の私のTPPに対する考え方です。
いまでも左翼の人は大反対で、反原発・反基地に並んで反TPPをスローガンにしていますが、私からみれば硬直した政治的反対論です。
http://hatarogu.blogspot.com/2016/10/blog-post_32....
TPPもオスプレイと一緒で、機体の安全性が問題なのではなく、オスプレイやTPPを政争の具にしたいだけなのです。
あくまでもTPPは交渉事であって、そのつど変化するのです。
変化は交渉主体が、自民党に替わったということです。
こう書くと「安倍信者」といわれそうですが、彼が任命した甘利氏は相手方のUSTRのフロマンからも激賞されるようなタフネゴシエーターでした。
2011年1月に、TPPをやると言いだしたのは菅直人首相でしたが、彼の内閣のメンツを見るとゾッとします。
2014年4月にオバマが日本に来ましたが、当時のオバマは米議会の圧力に抗しきれず、自ら日本に出向いてサシで呑ませようとしました。
内容的には、とうてい日本が呑めないような、無茶ぶりの「高い玉」だったと言われています。
ここでオバマは、尖閣は日米安保条約第5条の適用範囲だという声明を出す手土産の代わりに、貿易上の米国の利害を呑ませようとしたわけです。
私は危機感を感じて、ここで安倍氏が屈したらたいへんな事になると思って記事を書いた記憶があります。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/04/m-91c3.html
ここで安倍氏がみせた外交手腕はすごかったですね。
尖閣を第5条の適用範囲とするという言質をとった上で、シラっとして「わが国も国会決議があって譲れないのです」と言い放ったのです。
オバマが使った論理を逆手にとったわけです。
さて、このように安全保障上のこととTPPが絡むのは当然のことです。
このことに関して、私は数年前まで安全保障とTPPは連動しないと思って、そう書いて来ました。
しかし、これも情勢が変化したのです。
TPP交渉開始後になって、TPPに危機感を覚えた中国がAIIBを仕掛けてきました。
中国主導の貿易ルールでアジア・太平洋圏の貿易を支配しようとしようというのが、その思惑です。
今の南シナ海の人工島建設や、尖閣海域の緊張に見られるような、新冷戦が開始されたのです。
ここで日米が主軸となったアジア・太平洋地域の広範な貿易ルール作りをすることは、端的に中国と対抗する自由貿易圏作りを意味します。
これが軍事的政治的意味がないはずがありません。いわば経済上の集団的自衛権と言ってもよいでしょう。
これが、交渉参加した後に生まれた新たなTPPの性格です。
このような経緯を踏んで私はTPPに対して容認に変化しました。その時もキチンと変化した理由を書きました。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/post-092e.html
トランプが今になって脱退といっているのは、米国はTPP交渉が不調に終わったと認識し始めているからです。
逆に、今、日本政府が米国の大統領選の動向を無視して批准を進めているのは、米国に「TPP交渉のやり直しはありえないですよ」という外交メッセージです。
おそらくこのあたりの機微は、オバマとの呼吸もあるような気もします。
民進党蓮舫代表のように、「新大統領に対して失礼にあたるのではないかとも思い、懸念しているからTPP批准反対」では、米国従属もいいところですね。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161111-00000591-san-pol
旧民主党もそうでした。
ハトさんが日米同盟に打撃を与えたために米国の怒りを買うと、次の菅氏は一転して「平成の開国」とTPPをぶち上げて、揉み手路線に転向してしまいました。
しかも菅氏の「鎖国」の代表的なものを、農業だと考えていました。
事実は、高関税農産物はコメ、コンニャク、落花生、麦、バター、砂糖ていどときわめて限られていて、農業の中核である野菜、果樹、鶏卵などは、ほぼゼロ関税でした。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/post-6b58-1.html
こんな知的レベルで「開国」なんかやられたら、たまったもんじゃありません。
確固とした外交・経済政策がないために、こういう反米と従属を繰り返すのがあの人たちです。
https://www.youtube.com/watch?v=jO4a6s7oRj4
まぁそれはともかく、トランプがなれば、当然チャラにされる可能性が出ていますが、かならずしもそうとだけは言えない可能性もあります。
思い出してほしいのですが、そもそもTPPを提案したのは米国ですね。
外交案件は、政権が替わってしまえば白紙になるという性格ではありません。
それが出来るのは革命国家だけで、そんな国は国際社会で相手にされません。
トランプもTPPで交渉妥結した事実に制約を受けるのです。
そんなもんは前の大統領が勝手にやったんだ、などと言えば、米国の威信は崩壊します。
実際、世界最大の貿易国の米国にとって、TPPによるメリットは計り知れないのです。
トランプが憂慮する米国の製造業にとっても、大きなチャンスとなり得ます。
トランプがその辺が分からないような愚か者だとも思えません。
まぁ当分は、ありとあらゆるチャンネルを使って、TPPのメリットを分からせねばなりません。
それでもトランプが頑迷にノーなら、いっそう米国ぬきのTPP貿易圏を作ってしまって、そこから排除されることのデメリットをしっかりと味わってもらうのもひとつの手でしょう。
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