北電薄氷の電力供給 電力なき地方創生はありえない
北電が苫東厚真火力発電所1号機を前倒しして再稼働するそうです。
「18日にも苫東厚真火力発電所1号機(北海道厚真町)が再稼働すれば、北海道電力の供給力が需要を下回りかねない異常事態はひとまず解消される。
ただ、寒くなるにつれて暖房需要が大幅に増える一方、当初の危機感の薄れに伴い、道内の節電ムードは緩み気味。40年の耐用年数を超えて稼働させる老朽化火力も半数を超えており、綱渡りの状況は続く。 北電が同1号機を当初予定より半月近く前倒しして復旧させるのは、供給力が地震前日の5日に記録したピーク需要の383万キロワットに満たず、水力発電などをフル稼働させても安定供給を期待できないためだ」(毎日9月17日)
https://news.nifty.com/article/domestic/society/12159-0918m040098/
この毎日の記事でも触れていますが、これから急速に冬に向かう北海道において薄氷の電力供給体制が続くのは目に見えています。
現在、北電が目標としているのは地震前日の9月8日のピーク需要の383万キロワットですので、ブラックアウト直前時にまで復旧するにすぎません。
それすら現状ではままならないのが現状です。
北電HP 本日の電力使用状況http://denkiyoho.hepco.co.jp/area_forecast.html
問題はその先です。秋から冬にかけての北電管内の最大需要電力量(2017年10月〜12月)を見てみます。
●北電H P北海道エリアの需給実績http://www.hepco.co.jp/energy/recyclable_energy/fixedprice_purchase/supply_demand_results.html
・400万キロワット超が発生した期間・・・10月6日間
11月14日間
12月4日間
・450万キロワット超 ・・・11月5日間
12月25日間
・500万キロワット超 12月2日間
10月から12月にかけて、一気に北海道は寒冷期に突入するわけですが、去年実績では10月に連日300万キロワット超を推移し、6日間は400万kキロワットを超える需要がありました。
本格的冬季の11月、12月を待たずして10月で既に供給力はパンクしています。
つまり、「復旧した」というのは、あくまでも地震前の状態にかろうじて戻したにすぎないわけです。
その需給ギャップを毎日新聞(9月15日)がグラフにまとめていますので、引用させていただきます。
毎日新聞9月15日https://mainichi.jp/articles/20180915/ddm/002/040/119000c
ではどうするのかといえば、苫東厚真火力の復旧を急がせながら、老朽化した火力をフル稼働するしかありません。
ところが、この老朽火力があてにならないのです。いままで止めていたのを再稼働させていたために、電力マンの必死の努力にかかわらず稼働が不安定です。
先日の9月11日に、音別火力2号機が緊急停止しました。それ以前に1号機も故障して、修理して再稼働しています。
ひとつを直しながら、ひとつを動かしているわけで、まさに綱渡りです。
「北海道電力は11日、音別火力発電所2号機(釧路市、出力7.4万キロワット)で、ガスタービンが激しく振動するトラブルがあり、緊急停止したと明らかにした。不具合で停止していた同発電所1号機(7.4万キロワット)が修理を終えて同日に再稼働しており、節電目標や検討中の計画停電への影響はないという」(毎日9月11日)
https://mainichi.jp/articles/20180912/k00/00m/020/054000c
熱中症で多くの人が亡くなった夏期と並んで、厳冬期における電気はライフラインの中で最重要に位置づけられます。
説明はいらないでしょうが、厳冬期の電力喪失は即凍死につながりかねないからです。
失礼ながら、凍死の危険性を押してまで北海道観光をする人はいないでしょうし、たびたひ停電するような土地に進出する企業も稀だと思われます。
ところが北海道はニセコなどが典型的ですが、冬季こそがかき入れ時で、外国人のスキー客があふれかえる時期なのです。
すでに日本旅館協会北海道支部連合会によると、50万人の宿泊キャンセルによる影響額は100億円に達しているそうです。
このまま電力供給が薄氷状態ならば、考えたくもない経済損失、いや生命の損失すら招きかねません。
よくメディアは、今こそ北海道観光に行こうと正論を吐いていますが、ならばなぜこのような深刻な構造的電力不足が生じたのか、その原因にまで遡って考えるべきです。
今たけなわの総裁選において、地方創生を安倍氏が熱心でないと石破氏が批判していましたが、一面当たっています。
安倍氏は、北海道の電力供給の主力であった泊原発を停止させたまま、電力自由化を進めるという愚作を進めてしまいました。
よく安倍氏を原発推進派と言う人がいますが、まったくの間違いです。
彼は原発について明確な意志を表明したことはありません。規制委員会に丸投げしたきりです。
したがって、安倍氏はこと原発問題においては、臆病すぎるほど臆病に民主党が作ったムード的反原発路線の上を走っていただけのことなのです。
結果、「規制委員会による判断」を優先させ、全原発停止後7年もたってもわずかの再稼働しか許されない状況を作ってしまいました。
その上に、構造改革しなくてもいい電力分野に手を入れ、発送電分離を進めました。
規制緩和のメニューには、やって当然の獣医学部新設などがある一方で、しなくていい電力改革も同居しています。
北電においては、原子力の依存率が関西電力に次いで高い44%だったために、この泊原発停止の影響をまともに受けました。
何回か書いてきているように、今回の大停電の原因は、泊が停止して苫東厚真火力の一本足打法になっていたところに、地震で苫東厚真がダウンしたために発生しました。
泊がいつ動くか分かりませんが、この構造的電力不足が解決されないまま、2020年には北電などの大手電力会社は発送電分離を開始します。
電力は常に、発電所の停止や需要の急増に備えて予備率を充分に持っていなければなりません。
そのことを「冗長性」と呼びますが、電力自由化以前にはそれは電力会社の義務でした。
冗長性とは、システムの一部に何らかの障害が発生した場合に備えて、障害発生後でもシステム全体の機能を維持し続けられるように、予備装置を平常時からバックアップしておくことです。
※参考資料 千田卓二など「電力システムのレジリエンスに関する一考察」https://www.jstage.jst.go.jp/article/tsjc/2013/0/2013_175/_pdf
ところが電力会社は発送電分離によって、従来の厳しい供給義務から自由になります。
よく電力会社が独占企業だという人がいますが、それは発送電を単一企業に委託する代わりに、電力の安定供給義務を負わしたためです。
そのために電力会社は、通常の企業ならとっくに廃棄するような老朽火力も、いざという時のための予備電力としてキープし続けてきたわけですが、そのいざという時がほんとうに来てしまったのが、今回の事態でした。
このように電力供給の冗長性は安定供給のために必ず必要でしたが、今後ただの経営判断の問題にすり替わってしまうのかどうか、不透明です。
となると冗長性の維持は厳しい経営を続けている北電にとって、経営負担を増すだけの存在となりかねません。
たとえば、北電は電力供給の冗長性確保のために巨費を投じて石狩湾新港LNG 火力1号機を建設していますが、1号機だけは予定どおり2019年操業開始するとしても、2号機、3号機は企業の自由選択の対象となります。
音別火力などの老朽発電所はとっくに操業するだけで赤字なのですから、整理廃止の対象となるでしょう。
北電がどのように判断するのかわかりませんが、それ以前に政府が地域の電力供給に全面的な支援を与えるべきです。
電力なき地域は滅びます。
企業が去り、人が散り、村が潰れ、街が寂れ、そのような地域には企業も観光客もやってきません。
地域の滅びのスパイラルの開始です。北海道はその負のらせん階段の淵に立っています。
北海道において、地方創生は単なる街興しではなく、すぐれて電力供給の問題なのです。
最近のコメント