中国軍の戦争誘発行為について続けます。
中国の言い分の変化を追ってみましょう。 外交部の会見です。
・6日会見・・・「(質問から5秒の沈黙の後に)レーダー照射は報道で知った」(資料1参照)
・7日会見・・・「日本側が危機をあおり、中国のイメージを落としめている」
・8日会見・・・「日本の言い分はねつ造」、「日本側は危機を故意に騒ぎ立て、緊張状態を作り出し、中国のイメージに泥を塗るようなことをしている。中国側が強硬姿勢を示しているのではなく、日本側が挑発している。」
「日本側は中国の脅威を誇張して緊張を作り出し、国際世論を間違った方向に導いている」「中国側は対話と協議を通じて問題を解決しようと努力してきたが、日本は多くの船や航空機を出動させる行動をエスカレートさせている」
「最近、日本は危機を煽り、緊張を作り出し、中国のイメージの貶めを図ろうとしている。このやり方は日中関係改善の努力に反する」(資料2参照)
・8日国防部談話・・・「中国側に事実の確認をしないで、一方的に虚偽の状況を発表し、日本政府の高官が無責任な発言で『中国の脅威』を誇張し、緊張した雰囲気を作り出し、国際世論を誤った方向に導いている。」(資料3参照)
・中国政府準機関紙 環球時報・・・「レーダー照射は日本の自作自演で茶番だ、右傾化したヤクザの政治に中国は警戒せよ」(資料5参照)
まず外交部が知らなかったのは、驚くに値しません。外交部は中国で格下官庁でしかないからで、事前に軍部からなにか相談にあずかることはあまりないようです。
「捏造」だの「緊張を煽る」だのと、我が国を批判していますが、ロシアがどのように見ているのか紹介しておきます。
ちなみにロシアは北方領土の日にも戦闘機2機で領空侵犯していますが、ミサイル類を搭載しない状態で飛行するていどの自制心は兼ね備えています。
もちろん、今までさんざん領空侵犯してきましたが、射撃照準レーダーの照射などという、一歩間違えば戦争になるような行為は謹んできています。
「もし2隻の船を2人の兵士になぞらえるなら、レーダーによる標的の捕捉とそれに付随する行為は、弾丸の入ったライフル銃を敵に向け照準を合わせるに等しい。そうした条件においては、挑発者自身により偶然引き金が弾かれる可能性もないわけではないし、標的とされた側の船の乗組員が、生命の危険を感じて衝動的に危険な行為に出る事もあり得る。」
「以前も中国人民解放軍が威嚇のため、そうした行為をしてきたことはよく知られている。」
「はっきりしているのは、中国が、領土問題における行動方針を変え、相手の強さを試す事にしたということだ。」(ボイス・オブ・ロシア・資料9参照)
さて、8日に中国国防部は、あれは「艦載レーダーで通常の警戒に当たった」としています。 外交部ではなく、当事者の国防部ですから、これがほんとうの中国政府のコメントだと思えます。
子供だましです。艦船や軍用機にはレーダー警戒装置(ESM)が搭載されています。自衛艦ならばもっともよく受信てきるマストの頂上に設置してあります。
相手の艦船や航空機が射撃のために火器管制レーダー波を発信すると、それを受信し、警告を発して、自動的に記録するようになっています。
この装置により、相手が発したレーダーの種類、照射方向、信号源からの距離、敵が捜索中か、ロックオン(照準)しているかという状態が判別ができます。
通常の航海用レーダーは、漁船や商船の上でクルクルと旋回しているのですが、射撃管制用レーダーは、射撃対象に指向して追尾しますので一目で分かります。
もちろん自衛艦を指向している中国側フリゲートの射撃管制レーダーの映像は、海自に撮影されていますから、小野寺大臣が言うように近く国際社会に提出されるでしょう。(資料6参照)
当然ですが、照準用レーダーは、気象用レーダーや、航海用レーダーとはまったく違った周波数帯で照射されています。これも記録されていますが、探知能力がわかるので、全面公開されるかどうか不明です。
さらに、この行為は「西大西洋海軍シンポジウム」が作った「紳士協定」(CUES・Code for Unalerted Encounters at Sea)にも違反しています。
これは日本、中国、米国、韓国のほか、ロシアやASEANの海洋国家が参加するもので、CUESは、平時において、不測の事態を避けるための行動基準を定めています。
この中で、レーダー照射は以下のように禁止されています。
[PDF] Code for Unalerted Encounters at Sea (CUES) | Western Pacific Naval Symposium 2012
Assurance Measures for Ships
3.14.1 Simulation of attacks by aiming guns, missiles, fire control radars, torpedo tubes or other weapons in the direction of vessels or aircraft encountered..
残念ながら、「一部の国の反対で」採択には至っていませんでした。
この「一部の国」がどこかは不明ですが、今回の行為をみれば自ずと明らかでしょう。 しかし、西太平洋のほぼすべての海軍で偶発的戦争に到らないような認識が共有されていることに注目すべきです。
人民日報下にある「環球時報」は、韓国が北朝鮮に対して威嚇行為をしたことで今回の中国側の行動を合理化しようとしています。
つまり、「艦の行動を妨害する相手に対して、砲塔を向けて狙いをつけたり、射撃管制用レーダーを照射して警告するのは国際的な慣例だ」と言いたいわけですが、北朝鮮と韓国は未だ朝鮮戦争が終結していない休戦状態の準交戦国関係にあります。
果たして我が国と中国は現在「準交戦国」関係なのでしょうか?
環球時報の言う通りなら、中国は我が国と準交戦国関係だと認識して、あるいはそのような関係にするべく軍事的威嚇を行ったことになります。語るに落ちたとはこのことです。
我が国が着々と証拠を整え、国際社会に対して働きかけているにもかかわらず、このような理屈にもならないことを言うこと自体が、中国の混乱を物語っています。
さて、続々と追加情報が上がってきていますので、わかっているものだけでも整理しておきます。
・2005年・海自P3Cに対するレーダー照射。政府衆院安保委での答弁。
「航空機に対して当然中国艦艇は対空レーダーを用いて照準を合わせる。それに対して自動的に探知するESMという装置があって、これで照準が合わされたかどうかということについてはわかるようなっている。」
※第3次小泉内閣時 官房長官・安陪現首相
・2010年4月・民主党政権時代・海自P3Cに艦載砲の照準を合わせた。同時にレーダー照射もあったと思われる。
※民主党鳩山首相 仙谷氏官房長官 コメントなし。
・BSフジ6日、元海幕長古庄幸一氏、「中国は、レーダー照射しても日本政府が公表すると思わなかった。なぜかと言えば、いままで3年間は公表してなかったからだ」
※ただし古庄氏退任後の事件であって未確認情報だが、ほんとうならば民主党政権は一貫して隠蔽したことになる。
・2012年9月以前・レーダー照射事件
※野田前首相は否定。未確認。
・ 2013年1月19日・海自「おおなみ」搭載ヘリにレーダー照射・
・同年1月30日・海自「ゆうだち」にレーダー照射。
※この射撃用レーダーは搭載砲のものであるが、砲自体は動いていない。
このようにほとんど日常的に中国艦艇は日本側にレーダー照射をしており、「気軽に」攻撃の意志があるとなしに関わらず、戦争挑発行為を行っていたのです。
安倍-石破両氏は、常態化した尖閣周辺空海域の緊迫した状況を、政権奪還前から知り得ていたはずです。
なにせ、安陪首相は2005年の小泉内閣時代のレーダー照射事件時の官房長官だったのですから。
第2次安倍政権以前、特に民主党政権期に中国海軍、海監(中国海保)の艦艇は自由に領海侵犯し、気ままに射撃管制レーダーを照射しては威嚇を続けていても日本側は耐え忍ぶしかないという状態が既成事実化しかけていました。
目的のためには、執拗に軍事威嚇を積み上げていき、我が国に「領土問題」を認めさせて、交渉テーブルに追い込むか、あるいは、「最初の一発」を耐えかねた日本側に発射させることで一気に軍事的結着を図るということが、中国側のシナリオでした。
中国側はこの長期間(おそらくは3年以上)の侵犯行為を蓄積していき、日本側が慣れっこになって諦めるか、激昂して先に手を出してくる事態を狙っていました。
そしてそれは8分通り目論見が完成し、あとは昭和12年7月7日の「盧溝橋」を再現すれば中国側の大手でした。
我が国はそれに乗らず、言い訳の聞かない証拠を固めていき、武力を使うことなく一気に攻勢に転じました。
安倍首相が、今回5日に公表に踏み切ったのは、国際世論を味方につけるためです。
そして、今月末に予定されているオバマ大統領との会談に、この中国の横暴を議題に乗せることで日米同盟関係を固めて、中国と対抗することでした。
この時期を選んだのは、衆院予算委員会が7日から始まる時期にあたって、もっとも政府から情報発信がしやすい時期だったからでしょう。
その意図は見事に当たり、パネッタ米国防長官の強い中国批判を引き出しました。(資料7参照)
米国にはレーダー照射という戦闘行為を中国から挑まれたのにも関わらず、よく日本側は自制したという世論が生まれています。
中国軍部にしてみればいままでやりたい放題にしてきた武力威嚇が、いきなり国際社会の批判を浴びてしまったことに対する混乱が生まれています。(資料8参照)
中国は最大の年中行事の春節に入りました。この期間、対外的な動きは停止します。(※昨日複数の中国海監艦艇が接続海域を航行した。また航空機も複数が飛行した。)
そして以後中国軍が同じことを繰り返せば、それは確信犯的な武力行為であると知ってのことになります。
今後の中国の動きを冷静に注視せねばなりません。
゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。
■資料1 中国外務省“レーダー照射は報道で知った”
NHK 2月6日
中国海軍のフリゲート艦が先月、東シナ海で海上自衛隊の護衛艦に射撃管制用のレーダーを照射したことについて、中国外務省の報道官は「報道によって初めて知った」と述べ、外務省としては、事実関係について直接、知らなかったという立場を示しました。
中国外務省の華春瑩報道官は6日の定例記者会見で、中国海軍のフリゲート艦が海上自衛隊の護衛艦に射撃管制用のレーダーを照射したことについて「自分も報道を見たが、具体的には分からない。中国の関係部門に聞いてほしい」と述べました。
さらに、「中国外務省は、日本側が抗議するまで事実関係を知らなかったという意味なのか」という質問に対しては「そう理解してもらっていい。われわれも報道を通して、初めて関連の情報を知った」と述べました。
今回のレーダーの照射は、中国の政府や軍のどのレベルでの判断によるものなのか分かっていませんが、6日の華報道官の発言で中国政府全体としての行動ではなかったことは明らかになりました。
今後は、軍のトップでもある習近平総書記など指導者の指示によるものだったのかどうかなどが焦点になるとみられます。
■資料2 中国外務省“日本の言い分はねつ造”
NHK 2月8日
中国海軍の艦艇が海上自衛隊の護衛艦に射撃管制レーダーを照射した問題について、中国外務省の華春瑩報道官は8日の定例の記者会見で、「中国の関係部門がすでに事の真相を公表している。日本側の言い分は完全なねつ造だ」と述べ、強く反論しました。
さらに、「中国側は対話と協議を通じて両国が直面する問題を解決しようと努力してきたが、日本は過ちを正すどころか、多くの船や航空機を出動させ、中国の主権を損なう行動をますますエスカレートさせている」と主張しました。
そのうえで、華報道官は、「日本がこのようなことをするのはいったい何のためなのか問わずにはいられない。われわれも強い警戒を続けざるをえない」と述べました。中国外務省は、問題が発表された翌日、6日の会見では、事実関係について知らなかったという立場を示していました。
しかし、7日、「日本側が危機をあおり、中国のイメージを落としめている」と述べるなど、日本への反発を次第に強めています。
また、先月19日は、中国海軍の艦艇が通常の訓練を実施していたところ、自衛隊のヘリコプターが接近してきたため、艦載レーダーで警戒を行ったとしています。
そのうえで、いずれについても、「射撃管制レーダーは使用していない」として、「日本側の言っていることは事実と異なる」としています。
さらに、国防省の談話は、「中国側に事実の確認をしないで、一方的に虚偽の状況を発表し、日本政府の高官が無責任な発言で『中国の脅威』を誇張し、緊張した雰囲気を作り出し、国際世論を誤った方向に導いている」として、強く反発しています。
この問題を巡り、中国政府が正式な談話を発表するのは初めてです。
中国政府は、問題が発表された翌日の6日には、事実関係については知らないとしていましたが、7日、外務省の報道官が「日本側が危機をあおり、中国のイメージを落としめている」と述べ、日本への反発を強めています。
■資料3 中国国防部ウェッブサイト中国版 2013年2月7日
日本艦、機の近距離追跡、監視こそが日中の海空安全問題の根源である
日本防衛相が中国海軍艦艇が射撃管制用レーダーをで日本自衛隊艦艇、機に照準をつけたと指摘したという日本メディアの報道に対して、中国国防部ニュース事務局は以下のとおり説明する。
1月19日午後4時頃、中国海軍の護衛艦1隻が東シナ海関連海域で定期訓練を実施していたところ、日本自衛隊の艦載ヘリによる中国側艦艇への接近を発見した。中国側の艦載レーダーは正常な観察、警戒を続けたが、射撃管制用レーダーは使用していない。
1月30日9時頃、中国海軍艦艇が東シナ海の関連海域で定期訓練任務を実施していたところ、日本駆逐艦・ゆうだちが中国側艦艇の付近で近距離の追跡、監視を続けていることを発見した。
中国側艦載レーダーは正常な観察、警戒を続けたが、射撃管制用レーダーは使用していない。日本側の、いわゆる中国海軍艦艇が射撃管制用レーダーで日本側の艦艇・機体に照準を合わせたという主張は事実に合致しない。
指摘する必要があるのは、近年、日本側の艦艇、機体はしばしば中国海軍の艦艇、機体に対して長時間の近距離からの追跡、監視を続けていることである。これこそが日中の海空安全問題の根源である。中国側は何度も日本側に交渉を申し入れた。
先日来、日本側は事実を歪曲し、中国軍の正常な戦闘訓練活動をあしざまに描く、事実に合致しない言論を流布している。今回もまた中国側に事実を確認しない状況で、一方的にメディアに虚偽の状況を公表した。日本政府高官の無責任な言論、“中国脅威”論の喧伝、緊張ムードの造成、国際世論のミスリード。
これらの動向は警戒、熟考に値するものである。中国側は日本側は真摯に有効な措置を取り、東シナ海の緊張ムードを作り出す行為をやめ、無責任な言論を二度と発表することのないよう希望するものである。
http://news.mod.gov.cn/headlines/2013-02/08/content_4432510.htm
■資料4 レーダー照射は日本の自作自演で茶番だ、右傾化したヤクザの政治に中国は警戒せよ
環球時報 2月7日
敵対的な尾行および航行妨害を行う相手側の艦艇に対して、海軍艦艇が警告を行うことは国際的な慣例である。
一般的に、A側の艦艇がB側の艦艇の航行に実質的な脅威を与えた場合、もしくはその安全に深刻な影響を及した場合、B側の艦艇は無線連絡により相手国に対して間違った行動をとらないよう口頭の警告を行う。口頭の警告に効果がなかった場合、 B側の艦艇は艦砲を向けることにより、A側の艦艇の措置に対して警告を行う。当然ながら、火器管制レーダー照射により、 A側の艦艇の措置に対して警告を行うことも可能だ。最後に、B側の艦艇は艦砲による威嚇射撃により、警告を行うことが可能だ。
このような事件には先例がある。2002年11月、朝鮮の海軍巡視船が白?島の北3.5海里の海面で、北方警戒線を1.5海里越境した。
韓国海軍の5隻の海軍艦艇が出動し、そのうち1隻の韓国艦艇が2度に渡り威嚇射撃を行った。朝鮮の巡視船は反撃せず、Uターンし撤退した。
中日の今回の事件において、日本側は双方の艦艇の距離がわずか3キロに接近したと称した。これは対艦ミサイルの近距離射撃を行うため限界とされる距離を大きく下回っており、
対艦ミサイルの発射は想像しがたい。日本側は、中国側が対艦ミサイルの火器管制レーダーにより照射を行なったとしたが、これは日本側に良からぬ了見があるのではないかと疑わざるをえない。
これはまた、中国艦のレーダー信号に関する日本側のデータ不足を反映している可能性がある。これにより、中国艦の行動に対する日本側の判断ミス、もしくは判断の遅れが生じる可能性がある。
海上自衛隊の「盗人が他人を盗人呼ばわりする」茶番は、これが初めてのことではない。2010年4月、日本側は中国海軍の駆逐艦の速射砲が、 中国の艦隊を尾行していた日本のP-3C哨戒機に照準を合わせたと称した。しかし実際には、日本のP-3Cはいわゆる「防空識別圏」を目標確認の口実とし、中国艦に対して超低空尾行および挑発を行なっている。中国側も必要な措置を講じ、これに対して警告を行わざるをえない。
日本側は今回の「レーダー照射」事件の中で、当時の中日間に摩擦が生じていたという背景を発表せず、 また当時の双方の艦艇の航行に関する情報を提供しなかった。これはあたかも、当時の日本の理不尽さを故意に隠しているかのようだ。
しかしながら、日本側は断固否定するか、理非曲直をわざと曖昧にし、逆に中国を非難し、中国海軍の艦艇が「極めて珍しい行動」をとったと称した。
これは完全に日本の自作自演の茶番であり、その裏側には釣魚島(日本名:尖閣諸島)問題をヒートアップさせ、 安倍首相の訪米前の下準備をしようとする日本の意図が隠されている。日本はまた国際社会において、「いじめられている」ふりをしようとしている。
このような「理不尽でも三分の理を求める」という外交戦術は、まさに典型的な「日本の右傾化したヤクザの政治」であり、 日本の中国に対する欺瞞に満ちた外交的常套手段である。これに対して中国は警戒心を高め続ける必要がある。
■資料5 政府、レーダー情報の開示検討=防衛相「証拠持っている」―中国公船の動きは沈静化時事通信 2月9日
中国海軍艦艇による海上自衛隊護衛艦への火器管制レーダーの照射に関し、日本政府は護衛艦が捕捉した電波データや撮影した画像などの一部開示に向け、検討に入った。中国政府が日本側の発表を「完全な捏造(ねつぞう)」と全面否定したことを受け、レーダー照射の事実を裏付ける証拠を国際社会に示す必要があると判断した。
小野寺五典防衛相は9日午前、都内で記者団に「証拠はしっかり持っている。政府内で今(どこまで開示できるか)検討している」と表明。「防衛上の秘密にも当たる内容なので慎重に考えていきたい」とも語った。
防衛省内には「自衛隊の解析能力を相手に教えることになる」として、開示に否定的な意見が強い。このため日本政府は、中国側の今後の出方も見極めながら、外務・防衛両省を中心に、公開できる情報の範囲を慎重に検討する方針だ。
中国側は、軍艦が照射したのは通常の監視レーダーで、射撃用の火器管制レーダーではないと主張している。これに関し、防衛相は「通常のレーダーはくるくる回って警戒監視をするが、火器管制レーダーはその(目標の)方向に向けてずっと追いかける」と指摘。
その上で「私どもは相手の船のどのレーダーが火器管制レーダーか分かっている。それが一定期間ずっとわが方の船を追いかけていた証拠がある」と語った。
さらに、火器管制レーダーについて「電波を発する機械で、しかも(周波数などが)特殊なレーダーだ。それもしっかり記録しており、証拠として間違いない」と強調した。
一方、防衛相は9日午前の読売テレビ番組で、東シナ海での中国の動向に関し、「(レーダー照射を)公表した5日以降、尖閣(諸島)周辺の中国公船の動きは収まっている」と述べ、中国軍などの日本に対する挑発行為が沈静化していることを明らかにした。
■資料7 読売新聞2月7日
パネッタ長官の講演はワシントンのジョージタウン大で行われ、長官は尖閣問題に関し、
「他国を脅かし、領土を追い求め、紛争を生み出す中国にはなるべきではない」と述べ、
中国を名指しで批判した。
レーダー照射などの挑発行為については、「領有権の主張が制御不能となり、 より大きな危機を招く可能性がある」として強い懸念を表明した。
こうした米政府の懸念を日中両政府に伝えたことも明らかにした。
長官はまた、北朝鮮の核・ミサイル開発など北東アジアの課題に対応するため、 同盟国である日本、韓国との連携が重要だと指摘。
中国に対し、「日米韓3国に対抗するのではなく、共に地域の繁栄のために 努力するべきだ」と訴えた。
■資料8 中国軍の挑発沈静化 日本政府、「軍独断」の見方
産経新聞 .2月.9日
政府が5日に中国海軍艦艇の射撃管制用レーダー照射を発表して以降東シナ海での中国軍の挑発が沈静化していることが8日、分かった。フリゲート艦は沖縄県・尖閣諸島の北方海域に展開しているものの動きは小さく、連日続いていた戦闘機などの領空接近は途絶えた。
中国共産党指導部が挑発を自粛するよう指示したためとみられ、政府は照射が「軍の独断」だったとの見方を強めている。
東シナ海上空では昨年9月以降、中国海軍のY8哨戒機とY8情報収集機が日本領空に連日接近。12月からはY8を護衛する形で空軍戦闘機J10も近づき始めた。緊急発進(スクランブル)する航空自衛隊のF15戦闘機や警戒監視中の海上自衛隊P3C哨戒機などが入り乱れ、偶発的な衝突が懸念されていた。
政府高官は「年末から一触即発の状態が続いていたが、6日以降は驚くほど静かになった」と指摘。別の高官も「フリゲート艦を尖閣北方から後退させることはないが、この3日間の領空接近は皆無だ」と語る。
レーダー照射では、党指導部の指示か、軍の現場の独断だったかが焦点。防衛省幹部は「指導部の指示であれば照射を即座に正当化した上で、反発のメッセージとして別の形で挑発に出る準備をしていたはずだ」と分析する。
逆に、挑発が沈静化したことで、国際社会の批判を恐れた指導部が慌てて挑発の自粛を軍に命じたとの指摘が多い。パネッタ米国防長官も中国に自制を求めており、政府の積極的な公表が中国軍の挑発を封じる上で奏功したといえる。
中国では今月10日に春節(旧正月)を迎え、政府は祝賀ムードの中で軍が挑発を再開させるかにも注目している。仮に挑発に出てくれば、今度は指導部の指示であることは明白だ。
ロシアの国防問題専門家に聞く「レーダー照射は外交政策の手段となる
中国政府は、中国海軍の艦船が、東シナ海で日本の海上自衛隊の護衛艦に対し火器管制レーダーを照射したとの日本側の非難を斥けた。これについては、中国国防省の声明の中で述べられている。一方、分析専門家らは「そうした事はやはりあった」と見ている。VOR記者は国防問題のエキスパートであるワシーリイ・カーシン氏に、意見を聞いた。以下、氏の見解をまとめて御紹介したい。
中国の053H3型フリゲート艦が日本の海自の護衛艦を標的としてレーダー照射したのは1月30日の事だったが、この行為は、尖閣諸島をめぐる係争海域での中国の行動モデルが取って替わるというテーゼを最終的に確認するものと見なす事ができる。
比較的最近まで、中国は、自国の軍事力を尖閣諸島沖や南シナ海といった係争地区で誇示する事をそもそも避けていた。こうした場所で中国が存在を誇示していたのは、国家海洋局海洋モニタリング部の艦船や航空機、魚類保護や税関の船上の中国旗によってだった。これらの船や飛行機を操縦しているのは軍人ではなく、搭載している武器も原則として偶発的な出来事に備えるためのもので本格的なものではない。
このように中国は、領土的利益を断固主張しながらも、その一方で、軍事力で隣国を威嚇する気持ちがなく、あらゆる努力を傾けて軍事紛争を避けようとしている姿勢を示してきた。
ところが状況は変化した。まず1月10日、中国は係争地区に北海艦隊の偵察機Y-8を派遣、その後、自分達のパトロール・ゾーンに日本のF-15J戦闘機2機が現れたことに対抗して、同じく2機のJ-10戦闘機をそこに送った。翌日この示威行動に、日本側の情報では「武器を搭載した」ほぼ完全な編隊を組んだ形での爆撃機JH-7/7Aによる尖閣諸島周囲での飛行が加わった。
そして、こうした行動がエスカレートしてゆく次の段階として行われたのが、今回問題になった日本の護衛艦へのレーダー照射だった。火器管制レーダーの照射は、武器を使用する前の最後の措置である。これは、火器管制システムが、標的を攻撃するためのデータを連続して作成している事を意味する。
もし2隻の船を2人の兵士になぞらえるなら、レーダーによる標的の捕捉とそれに付随する行為は、弾丸の入ったライフル銃を敵に向け照準を合わせるに等しい。そうした条件においては、挑発者自身により偶然引き金が弾かれる可能性もないわけではないし、標的とされた側の船の乗組員が、生命の危険を感じて衝動的に危険な行為に出る事もあり得る。
なお日本側へのレーダー照射は、1月30日が最初ではなかった。1月19日にも中国側は、日本の艦船から飛び立ったパトロール用ヘリコプターにレーダー照射を行った。尖閣諸島海域において日本と中国の艦船は、互いに大変近い距離でパトロール活動を展開している。
日本の艦船にレーダー照射した053H3型フリゲート艦は、その後「ツャンフー」タイプのフリゲート艦に発展しているもので、1990年代から2000年代初めにかけて建造された。053H3型は、短距離高射ミサイルHQ-7、巡航ミサイルYJ-83、100ミリ砲などのシステムを搭載している。全体的に旧式ではあるが、このタイプのフリゲート艦は、近距離での戦闘ではかなり危険な存在と言える。今回のレーダー照射では、中国と日本の艦船の間の距離は、およそ3千メートルに過ぎなかった。
中国側は、自国の艦船が日本の護衛艦をレーダー照射した事を否定し、これは中傷であるとし、中国船のすぐ近くで日本が危険な策略をめぐらしていると非難している。しかし、以前も中国人民解放軍が威嚇のため、そうした行為をしてきたことはよく知られている。例えば2001年、中国空軍のスホイ27型機は、台湾海峡上空で台湾のミラージュ戦闘機に対しレーダー照射を行った。また今回の事件の直前、中国の軍事専門家の一部には、レーダー照射をすべきだとの声があったのも事実である。
はっきりしているのは、中国が、領土問題における行動方針を変え、相手の強さを試す事にしたということだ。近く我々は、中国指導部の目論見が正しかったかどうか、この目で見る事になるだろう。
以上、ロシアの国防問題のエキスパートであるワシーリイ・カーシン氏の意見を御紹介した。
最近のコメント