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2014年12月 9日 (火)

財務省最大の武器「歳出権」とは

094
昨日から、今年4月の消費増税の頃までの状況を書いています。 

というのは、中長期的な経済の回復の中から財政再建をするべきだと考えている首相が、なぜ増税に追い込まれたのかをみることで、今、彼がなにと戦っているのかが見えるからです。 

この解散総選挙の目的が色々取り沙汰されています。訳知りに、民主党潰しだなどという人がいますが、まったくないとは思いませんが、民主党のようなモノはどうでもいいと安倍氏は思っているはずです。 

わざわざ東京18区の怪人を政界から追放(←早く消えてほしいけど)するために、こんな大がかりなことをする必要はないじゃないですか(笑)。 

私はこの総選挙の隠された目的は、自民党内に浸透した財務省の影響力の排除です。

というか「財務省的発想」ときっちりと戦っておかないと、このデフレからの脱却は絶対に不可能だと考えたからだと思います。 

『voice』12月号の谷垣幹事長の対談を読むとその典型が分かります。ここで谷垣氏は「予定どおり上げる」ということを言っているわけですが、その理由としていくつか上げています。 

まずひとつ目は、「三党合意によって消費増税が法律として決まっているわけですから、計画どおりやる」というのが第一点です。 

その理由として法執行は粛々にやるべきで、付則18条の景気条項を使うためには法改正が必要で、そんな余裕はない、と続きます。 

この言い方は、まじめ人間ほど引っかかる増税派の論点すり替えです。 

本来、論議の中心にあるべき4月消費増税後の顕著な景気腰折れ現象について議論を戦わせるのではなく、ただの政局論議にしてしまっています。

法律といっても刑事法ではないんですよ。ただの消費増税の法律を「法ありき」と言うことでことさら重く見せていますが、実際は対決法案ではないのですから、1日ていどの審議で改正できてしまうことです。

そもそも法律は国民のためにあるのですから、国民の生活が打撃を受けていることをストップさせようという法改正が面倒だからできないでは通りません。それなら議員バッチはずしちゃいなさい、というだけです。

現に、今回首相が「増税はしません」といったらそれで終わりでしたね。その決断の時に、法改正の手続きが問題になりましたか。

こんな政局論は建前で、谷垣氏はむしろこの考えに支配されていると思われます。

「結局、消費増税を先延ばしにすると、社会保障や子育ての費用をどうするのかという問題がある。法人税減税といっても財源がない」

この「財源がない」というのは、財務省が使うレトリックの最強のものです。このひと言で、財務省は、議員をねじ伏せてきたのです。

たとえば、前回4月の消費増税の攻防において、財務省はこの切り札を乱発しました。

この攻防がたけなわだったのは去年の秋でしたが、ちょうど次年度の各省の概算要求を受け付ける時期にあたっていました。もっとも族議員が張り切る季節です。

なんだかんだで族議員たちが、あれもこれもと詰め込んだ予算要求が積み上がって約100兆もあったそうです。

財務省はどういう訳かいつものように、「センセイ、こりゃ無理です。カネが国庫にない」とは言わず、そのまま受け付けました。しかしこのひと言を付け加えたそうです。

「ならばセンセイ、既定路線どおりに増税していただかにゃなりませんなぁ」

財務省官僚は、予算規模を今ある税収から判断します。そこには成長の要素はありません。

そんな景気に左右される「水物」は考慮に値しないと考えているわけです。そしてこう言います。

「センセイ、与党の要求がいくらあるか知っていますか、約100兆ですよ。税収か決まらないので、予算書が書けないんですよ。やると決まった増税を早くチャッチャとやっちゃって下さいよ」

野党暮らしで3年半麦飯を食ってきた与党議員は、これにコロっと行ってしまったそうです。ああ、与党に戻れてよかった、さぁ増税するぞ。バカか、こいつら。

情けないですが、政治家とはこんなものです。議員でなけなればただの人、予算配分を選挙区や業界に引っ張ってこなければ、これまたただの人ということのようです。

これが財務省の「歳出権」といわれるものです。

「歳出権」とは、「財源として〇〇を執行するためには、〇〇税の〇〇%が要ります」ということを決定する財務省の権限のことです。

正確には明文化されたものではなく、明治の頃からの大蔵官僚の慣習でしかありませんが、財務官僚はこれを鉄板の権利だと思っているわけです。

たとえば、谷垣氏が社会保障費を上積みしたいということを考えたら、既存の予算枠を削るか、あるいは増税するという二者択一しかないと財務省は必ず言うわけです。

そして「センセイのおっしゃるいい政策をするためには、〇〇億円かかりますから、増税せにゃなりませんな」と畳みかけます。

このような財務官僚の「歳出権」と、「予算を引っ張りたい」という政治家のインセンティブとが見事に平仄があってしまった結果、「日本の常識」と化していました。

民主党などは「反官僚」をうたい文句にしていましたから、子供手当と高速料金無料化というやくたいもない予算をひねり出すために、普通は財務省主計局がやる事業仕分けという緊縮財政を自分でやってしまいました。

結果、「はやぶさ」(←この妨害のために3年も2号の開発が遅れた)やスパコン(←発奮して世界一になった)の予算をバシバシとカットしまくって、「財源作り」にいそしむ必要かあったのです。

結果レンポー氏が、「そんな財源なんか、なかった」と放り出したのですから、財務官僚はさぞかし笑いこけていたことでしょう。ついでに私も笑いましたが。

ちなみにあの事業仕分けの時に仕分け人の机にあった資料集を作ったのは、他ならぬ主計局の連中です。反官僚を叫んでいて、まるで財務省の掌の上の孫悟空ですな。

この財務省の発想には、すでにある予算を切り分けるという発想しかありませんから、経済が伸びて企業や国民が豊になり、その結果として税収か伸びるという考え自体がありません。

言ってみれば財務省は経済成長が体質的に嫌いなのです。キッチリと引き締まった無駄のない緊縮型予算を組む美学とでも言ったらほめ言葉になります。

経済成長した結果税収が増えても、財務省の手柄にはなりません。

ほんとうは予算枠が増えてメデタイと思ってしかるべきですが、そのように発想しないことが財務官僚の財務官僚たる所以なのです。

このように考えると、財務省に二度騙された首相が本気で闘いを挑んでいるのは、財務省に洗脳された自民党なのです。

首相の「政治の師匠」は小泉氏でだそうですが、安倍氏もまた、「自民党をぶっ壊す」と心の中で叫んでいるのかもしれません。

2014年12月 8日 (月)

自民党内異端としてのアベノミクス

052
この衆院選は、経済政策が争点になるという、面白い展開になってきたようです。こんなことは私が投票するような歳になってから初めてだったような気がします。そのくらい珍しい。 

安倍氏は、左右の集団的自衛権がどうたら、いや特定秘密はこうたら、という声をよそに、争点絞りをしました。

「アベノミクスはこの道しかない。流れを止めるか止めないかの選挙だ」という訴えは、シンプルに選挙の選択肢を示しています。 

経済が国の礎、安全保障も災害対策も、人権すらその上に乗っていて語れるものにすぎないからです。

一方、民主党の前原氏はこういう言い方で対抗しています。
「アベノミクスはこの道しかないのではなく、この道は危ない」という、アベノミクス批判です。
 

前原氏には気の毒ですが、批判という行為につきものの、我が身と引き比べなきゃなんでも言えるという類のものです。 

仮に民主党が政権をまったく運営したことがないウブな野党ならば、つまり政権交替選挙の時ならば、この言い方にも迫力があったでしょう。 

しかし、民主党政権時に何ができたのか、私たちはゲップが出るほど見させられました。 

財源なきバラまき、深刻さを増すデフレ地獄、止まるところを知らない円高バーゲン、停滞する実質賃金、改善されぬ雇用、ブラック企業の跋扈・・・、まるで無限に続く長いトンネルに国民は置かれたのではなかっのでしょうか。 

もういい、もう充分に分かったから、3年半高野山で百日行をしながら毎日反省文40枚書いてまた出直してね。 

さて、安倍氏が政権の途中において「国民の信を問う」たのは妥当でした。重大な決断に対して是非を問うのは民主主義の原則だからです。

600億かかるからくだらないなどと言うマスコミがいるので仰天しますが、この人たちは投票率落したいようですね。仲間由紀恵さんに、怒られちゃうゾ(笑)。

それはさておき、焦点の消費税についての経緯を見てみましょう。 

そもそも菅首相辞任時に民意が問われれば、野田政権は誕生せず、3党合意=増税路線自体が誕生しませんでした。 

消費増税が決まったのは2012年8月の消費増税法の成立によります。提出した政権は、野田佳彦首相でした。 

経緯としては、その前の6月に民主、自民、公明のいわゆる3党合意が出来ます。自民党側は、谷垣禎一総裁、幹事長は石原伸晃氏でした。 

安倍氏はこの決定にまったく関わっていません。雌伏の不遇期が続いていたからで、当時誰も彼が首相に帰り咲くなどと考えてもみませんでした。 

この消費増税法成立の後の2012年9月の自民党総裁選で、安倍氏は僅差で総裁の座につくのですが、この時に石破茂氏との政策の違いは安全保障政策にはなく、むしろ経済政策の差でした。 

石破氏は、かなりハッキリした財政緊縮論者で、かつ金融引き締め論者でした。つい先日まで「3党合意は堅持すべきだ」と言っていましたから、増税に対してもむしろ積極的な立場だと思われます。 

もうひとりの総裁候補であり、1回目で第1位を獲得した石原氏に至っては、3党合意路線を作った当事者でした。

一方、安倍氏は第1次安倍政権の失敗が、景気後退局面での財務省と日銀によるデフレ推進政策にあると考えていました。 

安倍氏の経済政策は、エール大学浜田宏一名誉教授の教えどおり、財政再建は景気回復に先行するものではなく、中長期的な経済成長によって解決すべきだとしていました。

これは今になると常識のように聞こえますが、おそらくこれを口にした首相は、安倍氏が初めてではなかっでしょうか。

彼はそれまでの民主党政権が押し進めてきた経済政策を180度逆にしたものでした。

「コンクリートから人へ」と称する財政緊縮政策、財政再建原理主義者の藤井裕久氏や与謝野馨氏が経済・財務担当の座に座っていたような金融引き締め路線、そして「初めに増税ありき」を根底から覆すものだったのです。 

ですから、安倍氏が掲げたいわゆる3本の矢である「大胆な金融緩和」、「機動的な財政運営」「成長戦略」のどこにも増税のゾの字も書かれていません。

いやむしろ安倍氏にとっては、アベノミクスにとって最大の阻害要因となりうるのが、他ならぬこの3党合意路線、すなわち増税政策でした。

2013年10月の増税決断を前に、8月前後から増税に向けて安倍包囲網が自民党内で作られます。 

産経新聞(2013年8月19日)は、その内幕をこう報じています。なかなかすごいですよ。 

「自民党石破茂幹事長は26日の記者会見で『引き上げは法律で決まっている。遅らせることだけが解ではない』と強調し、予定どおりの増税実施を求める考えを示した。(略)これまで安倍首相を支えてきた麻生太郎副総理県財務相や、甘利明経済財政担当相は、『予定どおりの増税』をくりかえしており、これを首相が無視すれば政権内に亀裂が生じる」

「自民党税制調査会(野田毅会長)は、税制について絶大な権限を持つとされる。それを少人数で切りまわす『インナー』には町村信孝元官房長官や額賀福志郎元財務相ら派閥領袖クラスか顔を揃えている。
一様に財政再建を重視しており、(略)安倍氏が増税先送りすれば『うち霧』と受け止められ、安倍内閣への批判を強めかねない。『インナー』OBの伊吹文明衆院議長が再考を求める可能性すらある」

このように自民党内のすべての派閥は増税を指向していて、安倍氏はその出身派閥の町村派からすら浮いた存在になっていました。

まさに安倍氏の経済政策は、経済学界では定説のケインズ理論に基づいていたにもかかわらず、与野党の中にあっては激しく異端だったのです。

長くなりましたので次回に続けます。

2014年12月 5日 (金)

財務省支配に挑んだ首相

066
内閣改造は女性の登用でつまずいたと言われますが、ほんとうに政界を驚かせたのはむしろ党執行部人事でした。  

この時に石破体制が刷新されてなんと谷垣氏を幹事長に、二階俊博氏を総務会長に、そして党税制調査会長に野田穀氏が抜擢されました。  

このお三方は揃って増税論者です。  

これらの党の重鎮を党の増税の決定を左右するポジションに据えたことで、マスコミは雁首を並べて12月増税が決定したかのような「安倍増税シフト」と書き立てました。  

私も増税に危機感を持つ者として、この党内人事には強い危機感を持ったひとりです。 

思い出してほしいのですが、当時安倍氏はあいまい戦術を使っていました。するとも、しないとも言わないのですから、どちらにとっても都合いいように取れてしまいます。 

これが有効なのは、党内という本来は味方陣営の結束が危機的状況にある時です。 

自民党の党内状況をみてみましょう。財務省は、省始まって以来といわれる大規模な「自民党絨毯爆撃作戦」をしていました。

安倍氏の予想を超えて財務省が「ご説明」と称する強引、かつ徹底した絨毯爆撃を自民党、野党、マスコミ、民間エコノミストに行っていたのです。 

そのあたりを日経新聞はこう報じています。解散を宣言するまで、安倍氏がなぜあいまい戦術をとっていたのか、これで氷解しました。

「解散権の背景には財務省の増税多数派工作 首相明かす
財務省が善意ではあるが、すごい勢いで対処しているから党内全体がその雰囲気になっていた」。安倍晋三首相は30日のフジテレビ番組で、衆院解散・総選挙を決めた背景に財務省による消費増税の多数派工作があったことを明らかにした。
首相は「責任を持っているのは私だ」と強調。「(増税延期に)方向転換する以上、解散・総選挙という手法で党内一体で向かっていく。民意を問えば、党内も役所もみんなでその方向に進んでいく」と説明した」
(日経新聞11月30日) 

このようにはっきりと言葉で説明されると、いかに財務省の多数派工作との攻防こそが焦点だったのか分かるはずです。

これは確かに解散前には発言できない性格の内容で、「今だから話そう」と言った類のものです。 

この安倍氏の発言どおり、秋までの党内はほぼ完全に財務省支配が完成寸前でした。

古手の議員から新人議員まで、アベノミックスには賛成だが、公共投資と金融政策で増税による実質賃金の下落には歯止めがかかると考えていました。 

「なにもあのスーパーパワーの財務省と角突き合わせて、決まっている3党合意をホゴにして、波風立てたくはないや。オレたちは圧倒的議席を握っているんだから安泰だ」、あらかたの与党議員はそう思っていたのです。 

この結果、菅官房長官が安倍氏の指示で作った増税阻止派の「アベノミクスを成功させる会」も、当初の45人が、たちまちに財務省の個別撃滅にあって、残ったのは発起人の山本幸三氏ら10人ていどまですり減っていました。 

ここまで、安倍氏の党内基盤が揺らいだのは、政権発足以来だったと思われます。 

推測ですが、大蔵省はこういうシナリオを考えていたはずです。 

<このまま安倍氏を党内で追い込んで「裸の王様」してしまい、再増税という泥をかぶらせて支持率を急落させた上で、用済みとなった安倍氏に替わって麻生氏か谷垣氏を総理に担ぎ上げる> 

この財務省の思惑は、夏までに8割方まで完成しかかっていたわけです。この状況で、首相が反増税をぶち上げることは不可能です。 

安倍氏に残されたのは、総裁としての人事権という武器でした。 

この党新執行部人事のキイマンは谷垣幹事長です。谷垣氏を、ナンバー2の幹事長に据えるときに、安倍氏はどう言ったのでしょうか。 

私がそれに気がついたのはこの朝日の記事です。ここで安倍氏はこう述べています。

安倍の課題はまず、増税を主張する与党首脳の説得だった。『景気が後退したら消費税は上げません』。9月の党役員人事で谷垣を幹事長に起用した際、安倍は谷垣に念を押していた。増税派の谷垣さえ納得すれば、増税見送りでも党内を抑えられると踏んだ安倍は10月下旬から、谷垣に消費増税の先送りと早期解散の相談を始めた」(朝日新聞11月19日)

つまり安倍氏はこう言っているのです。 

「4月の増税の影響で景気が腰折れしたら、その時は躊躇なく付則第18条を使って再増税はしませんよ。よろしいですね」 

もちろんイエスとしか谷垣氏は答えようがないわけですから、仮に景気の下落が明らかになった場合、谷垣氏は増税見送りに対してノーと言えなくなってしまいます。 

もちろん、よく当時の景気動向を観察すれば、7月には昨日見たように家計消費の落ち込みが発生していました。 

このままでは11月のGDP速報値はとんでもないことになるのは目に見えていたにもかかわらず、財務省の「ご説明」を真に受けた野田氏と二階氏はこんな間の抜けた発言を繰り返しています。 

野田氏は「リーマンショックに匹敵する経済変動がなければ予定通り引き上げるのが当然の姿だ」と述べれば、二階氏もまた、「国際的な信用にもかかわる。約束通り実行することが最重要政治課題」だと応じる始末です。  

この人事を見て財務省は増税派の勝利を確信したことでしょう。もはや残るは増税阻止派の最大、かつ最後の大物である安倍氏を「改心」させればいいだけですから。 

この役をするのは、安倍氏とともにアベノミクスを支えた麻生太郎氏を除いてはいなかったはずです。

たぶんブリスベーンのG20の帰りの政府専用機が、この二人の激論の場となったことでしょう。

麻生氏は持論の金融、財政政策で凌げると主張し、安倍氏はたぶん彼には本心である解散総選挙の心づもりを話したはずです。

結果はご覧の通りです。麻生氏は夏まで頻繁に漏らしていた「決まった通りにやる」という発言に封をします。

そしてもうひとりアベノミックスを支えた立役者がいます。日銀黒田総裁でした。おそらく黒田総裁は、安倍氏の反増税の硬い決意を自分の出身母体の財務省から聞いたのではないでしょうか。

黒田氏は慌てました。彼は「増税しなければ、国際金融市場の信任を失う」というのが持論でしたし、アベノミックスと増税は矛盾するものではないと考えていました。

その意図を黒田氏は、11月12日の衆院財務金融委員会でこう述べています。

(クロダ・バズーカを撃ったのは)2015年10月に予定される消費税率10%への引き上げを前提に実施した」

つまり黒田氏は、「安倍さん、日銀には金がダブいています。危なくなれば第3弾緩和もやります。どうぞ安心して増税して下さい」というメッセージを込めてバズーカをぶっ放したと言っているわけです。

かなり問題な発言で、日銀がかねてから持っている悪い意味での独立性を楯にして、政府の専管事項である消費増税決定に介入してしまっています。

このように、財務省に取り込まれた政府、与党内、日銀に対して、「国民の意志」を突きつけることで、増税をしない路線を堅持するのが、この選挙の目的なのです。 

朝日新聞が言う「大義」は明確に説明されていると思います。  

すなわち、この選挙の目的は、週刊誌などで揶揄されているような民主党潰しなどどうでもいいのであって(むしろ彼らは微増するでしょう)、真に今問われるべきは日本国の事実上の支配者である財務省との戦いなのです。 

長くなりそうなので、来週に続きます。ああ、政治-経済ネタは肩がこる(笑)。しかし、選挙になると自粛とは、逆じゃないかと思いますよ。

2014年12月 4日 (木)

4月増税の罠にはまった安倍首相

091
私はこの選挙は8カ月遅れだったと思っています。本来この春の悪夢のような消費増税決断の前に、国民に信を問うべきでした。 

安倍氏はこの4月増税前に大いに逡巡していました。まるで背中を押されるようにして毒を呑むつもりで増税に踏み切ったはずです。

消費増税は3党合意の枠組として前総裁の谷垣氏からの引き継ぎ事項でしたが、安倍氏は、アベノミクスが増税によって崩壊することを予見できるが故に、きわめて消極的でした。

増税が、いわば経済にアクセルとブレーキを同時にかけるような行為だとわかっていたからです。 

渋る安倍氏に対して財務省が仕掛けた罠は、アベノミクス第2の矢に当たる公共投資の大幅な増加をあっさりと認めたことです。 

既にミイラ取りがミイラになっていた「盟友」麻生氏などは、たぶん安倍氏にこう言ったはずです。 

「大丈夫、大丈夫、アベちゃん、心配のしすぎ。しっかりと第1、第2の矢を撃っておけば、簡単に景気は崩れないから。黒田さんもクロダバズーカを、ヤバくなったらまた撃つって言ってるしさ」(←口を曲げて言って下さい) 

しかし、そもそも公共投資と金融緩和だけで、日本経済を引っ張るのは無理なのです。 

かんじんなことは、家計消費と民間設備投資が健全に成長して、経済の先頭に立つ牽引車にならねばなりません。 

実際、財務省が目論んだように、公共事業のお土産カンフル剤が効いた日本経済は、4月から6月期にドンっと積み増しされました。 

しかし、それはあくまでも、増税前投資の仕込みで需要を先食いしただけですし、家計消費に至っては住宅、自動車、家電などの大型消費も同様に、増税前の駆け込み需要が反映されたにすぎません。 

まさに眼くらましですが、これにコロっとだまされたのが、株屋の研究所の民間エコノミストたちとマスコミでした。

では、そもそもアベノミクスが目指していたのはなんだったのでしょうか?

ひとことで言えば、「脱デフレ」です。1998年から始まる日本社会を蝕み、社会的閉塞現象を引き起し、青年の未来を奪ってきた「15年デフレ」の息の根を最終的に止めることです。

それはただのインフレターゲット「物価上昇2%」ではありませんし、名目賃金の上昇だけでもなかったはずです。 

常に物価上昇率を上回って名目賃金が上がらねばなりません。それがなければただのインフレが進行する中での不況、すなわちスタグフレーションとなんら変わりありません。

あくまでも個人の家計消費が、需要を強く牽引し、それが企業の設備投資につながっていかねばならないのです。

GDPの実に6割を占める個人消費が伸びなければ、需要が伸びないために企業業績は改善されず、実質賃金は下落し、雇用が減少するために求人市場は買い手市場となり、派遣社員ばかりが増えル結果となって、いっそうブラック企業がはびこることになります。

よく共産党が叫ぶ派遣切り反対や、賃金アップも、すべて元を辿ればこの個人消費の拡大、家計消費の伸びにかかっているのです。

彼らの反貧困、ブラック企業糾弾運動も一理ありますが、元から原因の根っこにあるデフレを叩き潰さねばダメなのです。

これが安倍氏が口癖のように言っていた景気の「好循環」ですが、このリングを切断するのが増税だというのは分かりきった話でした。 

この4月消費増税は、完全にこの個人消費を再び冷え込ませ、「15年デフレ」の暗いトンネルに逆行を開始したのです。 

総務省家計調査で今年1月から7月までの、二人以上世帯の実質消費支出の前年比推移を見てみましょう。 

1月  +1.1%
2月  -2.5%
3月  +7.2%
4月  -4.6%
5月  -8.0%
6月  -3.0%
7月  -5.9%

実に7か月などは-5.9%です。夏の段階でこの真っ赤に点った赤信号に安倍氏が気がつかないはずがありません。

首相は強烈な危機感を抱いて、再増税をしない決意を7月前には秘かに固めたはずです。 

ならば簡単ではないか、と多くの人はこの私を含めて考えていたと思いました。この消費増税法には「付則18条」という景気条項がセットされていたからです。 

では付則18条だけでは、なぜこの11月に正面玄関からの増税阻止が出来なかったのでしょうか。  

そこが分からないと、この総選挙の意味は理解できないで、三橋貴明氏のように、「なんで選挙するのかわからない。付則18条つかえばいいだけじゃん」とばかりに反・安倍の急先鋒になってしまうことになります。

長くなりますので、それについては明日に廻しますが、ひとつだけ。 

増税阻止のほんとうの「敵」は、党内にいたのです。 

もうひとつのヒントを。なぜ安倍氏が内閣改造と共に、党内人事の刷新をしたのかです。 

2014年12月 3日 (水)

衆院選の争点がないだって?

037
本日衆院選が公示されました。ひと頃、朝日新聞などのマスコミは、選挙をしらけさせるために、大義がない争点なしと言い続けてきました。 

そもそも今の日本の選挙に「大義」などという大仰なものがいるのでしょうか。 

もし選挙に「大義」が必要ならば、それは今の香港のようなケースです。

香港で中国が強行しようとしているような一党独裁政党が指名した候補にしか投票できないとなれば、それは選挙という行為自体に燃え上がる「大義」があります。 

私も、もし共産党指名候補と非指名候補を選べと言われたら、雨が降ろうと槍が降ろうと、這ってでも投票所に行きます(笑)。

若かったら、雨傘を持って市庁舎に駆けつけたクチです。朝日さん、選挙の「大義」なんて言うなら、香港に行って言っておくれ。

それはさておき、では、衆院に与えられた首相指名権を使っての政権交替でしょうか。これも違いますね。 

今回、無様にも民主党は全選挙区に候補者を擁立ができず、仮に全部の小選挙区で勝利しても政権につくのは不可能です。

集団的自衛権、特定秘密法が問われているって?そう言う政党も、保守論客もいるようですが、それは最大の争点ではありません。 

え、じゃあ全政党が「増税反対」と言っていているので、争点がなくなる?はい、確かに現象的にはそうです。

共産党の反対はホントのホンモノですが、偽装反対政党がひとつ紛れ込んでいますね。

もちろんそれは野党第1党の民主党です。 

民主党は、11月の野党連名での消費税凍結法案に反対した唯一の野党です。選挙になったとたん、これでは勝てないので転向しただけで、素晴らしいばかりの節操のなさです。

今はアベノミックスが失敗したとか叫んでいるようですが、そもそも自分の政権時代にデフレを進行させておいてよく言うよと思いますが、実は争点はアベノミックスですらありません。 

民主党の選挙演説は、このアベノミックス批判一色です。 

まずは、「円安による中小企業の業績悪化」ですか。今ピンチな中小企業の代表例は鋳物業界ですが、原因は原発停止と電気料金の異常な値上がりによるものです。 

それこそ海江田氏が経産相時代に、菅首相と一緒にやった原発停止政策の巨大な負の置き土産です。 

いきなり全部止めずに、運転しながらの段階的安全審査も可能だったはずなのに、後先を考えない反原発小児病でやるからこうなったのです。 

皆さん、原発を止めた「手柄」をカン氏に奪われて、涙目で手の平に「忍」なんて書いていたのはどこの誰だっでしょうかね(笑)。

また、よく食品業界の小麦やバターなどの畜産品の値上がりが円安と結びつけられていますか、これもリスクヘッジをかけて輸入しているので、4半期ごとの見直ししかないという仕組みを知らない人たちの言い草です。

テレビ局の皆さん、円安が変動するたびにに、ケーキ屋に行くのは止めようね。

バターの値上げは輸入を統括している官僚天下り団体の統制がかかったからで、円安という為替変動とは関係ありません。 

原油高だったのはOPECの減産政策のためで、いまやサウジのシェール潰しのために劇的に下落を開始し始めています。

「非正規雇用の増加」は、デフレ脱却の過程で起きる現象で、まず雇用率は非正規雇用から改善されていくからです。 

今、ブラック企業と名指しされた企業の業績が軒並み下落しているのは、景気回復局面で求人難になって、わざわざブラック企業で安い賃金でコキ使われる必要がなくなったからです。

景気がよくなれば、ブラック企業は自然に減少していきます。わざわざ奴隷労働する必要がないからです。

「株価だけが上がって庶民や地方に恩恵がない」というのは、これとも関連するのですが、景気回復のテンポの違いです。 

株はいわば期待値で売り買いされる先行指標のようなものです。しかも気分で変動します。

もちろんジグザグしますが、先行きの経済が悪化すると思えば買われないし、政治が安定していて、間違った経済政策をしていないならば上がるのです。 

これが賃金に反映されるのは、上昇局面からややたった時点で、景気回復による仕事増が求人難につながり、賃金上昇へと結果します。この間のレスポンスのズレは1年以上あるとされています。そりゃそうでしょう。

ちょっと業績が変動しただけで、賃金を上げたり下げたりされたら、雇用者はたまったモノじゃないわけです。

期待値で上げてくれるという嬉しい企業もあるようですが、基本は今頃の労使交渉て本年度の業績を見てからによるので、原則年に一回です。

だから賃金上昇が遅れて当然です。 むしろ実質賃金の上昇がマイナスになってしまった現状が大問題なのです。

地方の衰退も事実ですが、民主党こそ「コンクリートから人へ」などという不況時の公共事業削減政策という大愚作をしたあげく、地方経済の柱の土木業界に壊滅的打撃を与えたことをすっかり忘れているようです。

民主党さん、この選挙でもう一回地方で「コンクリートから人へ」なんて言ってみなさい。タコ叩きにされますから。総括もなくなんでも言うじゃないよ、まったく。

最後に、先にも少し触れましたが、「実質賃金の減少」現象ですが、これがもっとも重要な争点でしょう。この現象が現実に進行しているために、国民は暗澹たる気分になっているわけです。
 

しかし、そのうち詳述しますが、原因ははっきりしています。4月増税による物価上昇を、賃上げが吸収しきれなかったことによる悪影響です。 

ですから、こんなに個人消費が落ち込んでいて、成長率がマイナスに転落してもまた増税するのですか、ということです。 

これもそもそもデフレ期に消費増減税のための3党合意を仕組んだのはどこの誰だったのでしょうか。民主党野田政権時代じゃないですか。 だから今でも野田氏は3党合意を守って増税しろと言っているのです。

もちろんその3党合意が実行されたのは、安倍政権時代ですが、この時本来は安倍首相は国民の信を問うべきでした。

安倍氏は国民に3月に総選挙を断行して、こう国民に尋ねるべきだったのです。

「私は政権を受け持ってからアベノミックスでがんばってきましたが、消費税を上げるべきだと言う人も多い。私は上げるのは気が進まないが、どちらが良いのか教えて下さい」

ですから、総選挙は8か月遅かったのです。この失敗について、安倍首相は潔く認めるべきです。 しかし、遅れてでもしないよりましです。

今、国民が増税に反対という意思表示をつきつけるべきです。なんだったら5%に戻せと言ってもかまわないくらいです。

共産党はそう主張していますが、まったくそのとおりです。この党は時々すごい正論を言うから捨てたもんじゃありません。

財政再建なんぞ、景気回復に伴う、税収の増加でいくらでもどうとでもなります。実際、去年に景気が回復して1兆円だかの増収になったはずです。

「国債の信任」がどうたらで、増税しないと金利が上がるなんてバカを言う人がいますが、何を見てそう言っているのでしょう。

確かに安倍さんが増税をしないと言ったら米国の格付会社(←リーマンショックを引き起こした張本人ですぞ)が、日本国債のランクを下げてきました。

その結果、確かに国債の長期金利は上昇しましたが、何パーセント上がったとお思いですか。0.42%から0.43%ですよ(爆)。

わずか0.01%上昇しただけで、「国債の信任」がなんて言うんじゃないと思います。

それじゃなくても、世界一安い実質ゼロ金利で運用されているのは日本の国債で、これが破綻するなんて思う投資家は世界にひとりもいません。

言うまでもなく、この増税をしたのは、安倍氏の重大な失敗です。そしてこの失敗を吹き込んだのは誰だったのでしょう。

この春に増税しても大丈夫だ、景気は腰折れしない、増税のショックによる個人消費の鈍化は一時的なものだ、必ず短期で吸収できる、そう言って永田町の与野党やマスコミ、民間エコノミストたちの間を歩き回った集団がいました。 

それが財務省官僚たちです。

長くなりましたので、明日に続けます。